「今や投資の世界は、機関投資家の間で繰り広げられるAI(人工知能)ロボットコンテストだ」。そう証券関係者は口をそろえる。

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 たとえば、株式市場を飛び交うのは高度な駆け引きだ。大量の買い注文を即座にキャンセルし、ほかの取引を誘発しようとする「見せ玉」(禁止行為)まで用いるなど、AIは現在、相場を大きく動かしているといわれている。

 近年の急速な進歩により、投資におけるAIの存在感は一段と高まりそうだ。各社ともAI技術を活用した商品を次々と投入している。

■実際にAIが運用する商品が登場! 

 2016年12月、三菱UFJ国際投信は、機関投資家向けにAIが銘柄を選択する投資信託の運用を始めた。この投信は三菱UFJ信託銀行が実験してきたAIモデルを利用したものだ。

 機械受注や有効求人倍率といった経済指標、移動平均や売買高など、市場に影響を与えるデータを分析し翌日のTOPIX(東証株価指数)の騰落を予測。上昇しそうな場合は株式に資金を振り当てる。

 また、ニュースや有価証券報告書、ネットの書き込みなど、大量のデータから特定の銘柄のポジティブ度とネガティブ度を点数化し、ポジティブ度の点数が高い銘柄の購入を進める、というものだ。

 そのほか、みずほ証券なども機関投資家向けに、AIを用いた株式売買システムの開発に取り組んでいるという。
ネット企業のヤフーもグループで参入

 AIは個人投資家向けにも使われる。代表的なサービスが、AIが資産運用のポートフォリオを策定するロボアドバイザーだ。楽天証券は16年7月、投資一任型運用サービス「楽ラップ」を発売した。

 「野菜を買うとき、どのように選ぶか」「臨時収入100万円が入ったらどう使うか」などの質問に答えると最適なポートフォリオが提案される。診断自体は無料だ。

■ネット企業のヤフーもグループで参入

 マネックス証券の「MSVLIFE」は「世界一周旅行」や「マイホーム」など資産計画の目標をまず設定する。そのうえで目標金額や期間、リスク許容度などを入力すれば、自動で資産運用計画が策定される。最低投資予算は1万円と、業界最低水準だ。

 ヤフーは2016年11月、グループの投資信託委託会社、AIを開発する投資顧問会社とともに、AIが運用する投信の販売を開始した。ヤフーの天気予報やニュース、検索ワードなどのデータが分析に用いられている。

 各社に共通するのは、コストの低さだ。信託報酬や手数料を低く抑え、最低投資金額も低い。参入障壁を低く設定し、多くの個人投資家を呼び込む構えだ。

貯蓄から投資への流れは加速する?

 米国ではAIによる投資が急速に広がる可能性がある。大手コンサル会社の米A.T.カーニーによる調査では、ロボアドバイザーが運用する資産額は20年には220兆円に達するとされている。

 NTTデータ経営研究所の加藤洋輝シニアマネージャーは「米国では低い所得層の人々もサービスを享受できるようになり、投資に向かう人が増えた。ただ、日本は金融教育が足りていないことから、投資に消極的な人が多い」と指摘する。

 長年、「貯蓄から投資へ」と叫ばれてきたが、AIはその一助になれるのだろうか。

東出 拓己