2016年も残すところ僅かとなった。年末といえば株式・為替のボラティリティが高まり、さまざまな「情報」や「アノマリー」が飛び交う時期である。そこで、ここでは年末の投資戦略を解説していこう。

■年末マーケットのチェックポイント「IFRS」

日本企業にとっての12月末は年末の締め作業を行うということ以外には大きなイベントはない。しかし、目を「世界の企業」に向けると事情は変わってくる。

IFRS(国際財務会計基準)の存在だ。これは国際会計基準審議会(IASB)によって制定された会計基準で、文字通り「国際的な会計の基準」となっている。米国や欧州などを含む世界の企業ではこの会計基準をベースに会計データを作成することが義務付けられており、世界的な企業だけに限らず一般的な上場企業全般がこの基準で運営されている。

今回は会計の話題ではないため細部は省くが、年末相場において注目すべきなのは「決算時期」だ。IFRSにおいては決算時期は「12月末」と決められており、この会計基準を採用している国では12月末に向けて一斉に「会計の準備」に入ることとなる。

この段階で生産拠点や子会社などを海外に置いている「多国籍企業」は決算に向けて「米ドル」を購入する。これはいまだに基軸通貨が「米ドル」であり、事業決済は米ドルベースで行われるためだ。こういった動きが実務処理として発生するため、「年末は米ドルが買われる」という相場格言という形で残っている。

■2016年末の為替と株式の関係

では、米ドルが買われるとどうなるのか。理論上、米ドルが買われることにより相対的に円が安くなり「ドル高・円安」が発生する。現在「円安が進めば日本株は上がる」という従来の価格連動(これを「相関」と呼ぶ)は薄れてきつつあるものの、いまだに「円安」が「株高」を誘発するというのが日本のマーケットの現状だ。

それを裏付けるのが12月15日に行われた「米国政策金利の利上げ」と「株高」だ。政策金利を0.5%から0.75%に引き上げるとの発表を受け、米ドルは急速に買い進められた。それを受け日経平均も事前にマーケットは「利上げ」を織り込み済みだったもののさらに上昇、現在は2万円を目指すのでは?という声も市場関係者から囁かれ始めている。

これらのデータと今年度の価格推移を分析すると「年末は米ドルが買われやすい。それによって円安が進行し、結果として株価は上がるのではないか」という状況が見えてくる。

■実際の投資戦略への影響と予測

以上がデータを元に動きを分析した結果であり、以下からは筆者自身の「予測」となる。あくまで資産運用FP個人としての見解・分析であるが、「年末のドル買い」が実際の為替レートに与える影響は、実際には限定的であると考えている。理由以下のは2つ。

①プロであれば誰でも知っている
一つ目が、プロなら年末に米ドル買いが発生することは誰でも知っているということ。会計実務の関係上、米ドルの買いが入りやすいというのは決算などをベースに企業の株式売買を行う実務家にとっては「常識」であるといってしまっても過言ではない。そうであるならば、マーケットは「米ドルが買われる」ことを想定した上での動きをすると考えられる。その場合想定できるケースは以下2点である。

1. 為替レートはほぼ変動しない
「米ドルが買われる」のだから、それにぶつける形で売りポジションの精算を行う。

2. 一時的にドル高が進むもののすぐに収束
買いが入るのは分かっているので前もって自分も買いを仕込んでおき、企業が買い始めるのと同時にぶつけて利益確定する。

上記いずれのケースになるかは分からないが、少なくとも日々マーケットに張り付いて売買をしているようなプロ・セミプロではない限り「この相場の流れには乗るべきでない」というのが私の見解だ。

②トランプ大統領の誕生
年末のドル買いが実際の為替レートに与える影響が限定的だと考える二つ目の理由は「トランプ大統領」だ。先の米国大統領選でクリントン氏を破り、ドナルド・トランプ氏が当選したのは記憶に新しい。

これによりマーケット参加者大勢の期待を裏切り、当初「トランプ大統領はドル安を誘発する」と想定されていたのが一点、大統領選前は100円台前半をつけていたドル円は急遽反転、12月19日現在117円とドル高円安が進んでいる。

これにより日経平均も上昇、大統領選後から1500円近く上昇しているという状況だ。こうしたなか、一つ目の理由を加味した上で、さらにマーケット価格に大きな影響を与える可能性はあるだろうか。おそらく今年度は限りなく低いと想定する。

■自身にとっての最適な方針を

以上が、今年の動きとプロの思考を想定した上での筆者の見解だ。筆者自身としては、「常にマーケットに入らなければならない職業トレーダーでないのなら、リスクが高い市場には飛び込むべきではない」と考えている。もっとも「リスクが高い」とは、すなわち「大きく損をする可能性はあるが、大きく儲けるチャンスでもある」ということも否定しない。

こういった相場で問われるのは「自身が求めるリターンと、それに見合った投資戦略」だ。安定した運用を行いたいという方にはオススメできる相場ではないが、ハイリスクハイリターンで一攫千金を求める方にとっては自己責任で参加してみるのもありだろう。

読者の皆様には「自身にとって最適な方針」を選び、ぜひとも良い形で今年の投資活動を締めくくっていただきたい。(土居 亮規 AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ)