今年9月に公表された国際決済銀行(BIS)の報告書によると、4月の為替取引高は1日平均5.1兆米ドル(以下ドル)。日本の国内総生産(GDP)は約540兆円(12月7日の1ドル=約114円換算で約4.7兆ドル)であるため、日本の国内で1年間に生み出される付加価値を上回る規模の為替取引が1日で行われていることになります。1年のうち、為替取引が行われる日数を250日と仮定すれば、年間の為替取引高は1275兆ドルと計算できます。


 一方、日本貿易振興機構(JETRO)によると、2015年の世界貿易額は16.5兆ドル。貿易に関わる為替取引、いわゆる実需の取引額は33兆ドル(輸入と輸出の両サイドがあるため、世界貿易額×2倍)で、為替取引全体からみれば40分の1程度にとどまります。つまり、外貨や外貨建て資産への投資など貿易以外の為替取引がいかに大きいかがわかります。

 ただし、実需の取引は基本的には外貨を買い切る、あるいは売り切る取引です。一方で、外貨投資の中には、一部のFX取引のように秒単位、コンマ単位で売り買いを繰り返すことで、結果として資金の流れがほとんど発生しないようなものも含まれます。したがって、為替相場に対する実需の取引の影響力が全体の40分の1に過ぎないというのは、さすがに言い過ぎでしょう。
為替取引高は時間帯で大きく異なる

 ところで為替取引は1日24時間、世界のどこかで行われています。その意味で、為替市場は「休まない市場」と言えるでしょう(ただし原則土日と国によって祝日は休み)。

 市場参加者が多く、為替取引が活発に行われているのがロンドン市場であり、ニューヨーク市場です。したがって、為替取引高は、ロンドン市場が開くころに取引高が増え始め、ニューヨーク市場が開いて、ロンドン市場が閉まる直前にピークに達します。米国のとある調査によると、ピーク時の1時間の為替取引高は7500億ドルに達するといいます。

 逆に取引高が極端に細るのが、ニューヨーク市場が閉まり、東京や香港、シンガポール市場が開く前の2時間ほどです。豪州のシドニー市場が開いていますが、参加者は非常に少ないです。先の調査によれば、この時間帯の取引高は1時間に160億ドルと、ピーク時のわずか2%に過ぎません。アジア時間の取引が最も活発な時間帯でも、ピーク時の4分の1程度とのことです。


イベント発生タイミングによる差

 今年の為替市場の重大イベントといえば、6月の英国民投票における「ブレグジット(欧州連合離脱)」決定や、11月の米大統領選におけるトランプ氏勝利でしょう。いずれも、投票結果が判明したのが日本時間の平日昼間で、東京市場を直撃した格好になりました。前者ではポンドが、後者ではドルが急落。欧米のピーク時に比べて市場参加者が少なかったことが為替相場の変動を大きくした可能性があります。

 他方、7月のトルコのクーデター未遂は金曜日夜(日本時間土曜日早朝)に発生しました。ニューヨーク市場でトルコリラは売り込まれましたが、残された取引時間が短かったことがリラ暴落の回避につながったのかもしれません。クーデターは週末のうちに鎮圧されたため、週明けの東京市場では落ち着いた取引となりました。

 このように、為替市場に影響を及ぼすイベントも、その発生のタイミングによって影響の度合いが大きく異なることは大変興味深いものです。

株式会社マネースクウェア・ジャパンチーフエコノミスト 西田明弘